人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。
「黒磯さん…お願いします。産業医の面接を受けて下さい」
「え?」
ある日の仕事中。
突如現れた総務部の加賀朱里さん。
問診票と予約表を持って、私に向かって深く頭を下げた。
「加賀さん。私より、他にも大変な人はいますから。そちらを優先して下さい」
「違います。黒磯さんが危ないから言っているのです。他が、とかではありません。面接は労働者の申し出により行うものですが、黒磯さんは駄目です。会社として、貴女には面接を受けることを指示します」
「……冷酷な産業医の…面接ですか?」
「…それは、すみません。そうです。事業者の義務もありますので…どうか…」
加賀さんの目が本気すぎて、これ以上何も言えない。
…渋々、受けることに決めた。
「……分かりました」
「ありがとうございます。では早速、問診票をご記入下さい」
そう言って渡された1枚の紙を上から順番に記入していく。
問診票というか、心理テストみたい。
はい、いいえで答えるだけ。
「…………」
【問4.直近1ヶ月以内に、死んでしまいたいと思ってしまったことはありますか?】
「…………」
【はい】に丸をする。
「……ふぅ」
思わず溜息が出る。
何か、この問診票を書くのも面倒くさい。
…もういいよ、別に。
面接したところで、業務量が変わるわけでは無いし。
危ないって分かっているなら、システム部の人を増やすか、仕事量を減らすかどうかすればいいのに。
…なんて。
そんなこと考える気力はまだ残っていたみたいで、我ながら少し安心した。