【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「ぷはぁ……! あ、貴方、ここを何処だとお思い? そもそも、警護は……」
「あぁ、残念。俺って、隠したり隠れたりする魔法が得意でさ。……その延長戦で、ここに忍び込んできた」

 あっけらかんとそうおっしゃるアルテュール様に、殺意が湧く。プレスマン伯爵家はマーセン伯爵家と同等の家柄ですので、適当にあしらうことは許されません。ですが……そもそも、不法侵入なんて許されることではありません。しかも、魔法を悪用してだなんて……魔法協会に訴えられますわよ!?

「う、訴えられ……」
「うるさいって言ってるだろ。シュゼット嬢以外の女の声何て、俺は聞きたくねぇんだよ」

 わたくしがわざわざ注意をしてあげようとしているのに、アルテュール様は纏うオーラを変えられると、わたくしを強くにらみつけてきます。その目の奥には侮辱の感情がこもっていて。……わたくしは、悔しくなった。……そして、シュゼット嬢。それは間違いなく、アルベール様の婚約者の名前。

「シュゼット……」
「そう、シュゼット嬢。俺はね、あの子を手に入れたくて仕方がなくてさ。だから、キミの元に来てみた。……リーセロット・マーセン嬢。キミには、利用価値があるからね」

 そう言ったアルテュール様は、わたくしの額に人差し指を押し付けてこられました。……指自体は痛くない。でも、わたくしの身体の中で何かが芽生えていくような感覚に陥ってしまう。憎しみ、恨み、嫌悪。そして――焦り。

「悪いけれど、キミには俺の手駒になってもらうから。……キミの行動一つで、マーセン伯爵家が滅びちゃうかもしれないけれど、そこはご愛嬌ってね。大丈夫――俺の望みが叶うか失敗するかのどちらかが達成されたら――その呪いは自然と解けるから」

 何故か薄れゆく意識の中、わたくしの耳に届いたのはアルテュール様のそんなお言葉。そして、身体の中から燃え上がる憎悪。酷く胸を突きさす焦燥感。……あぁ、そうですわ。わたくしはあのお二人の間を引き裂かなくてはなりませんの。

(そう、アルベール様に相応しいのはこのわたくし。あの女は、邪魔者)

 あのお二人の間を、引き裂く。

 例え――何をして、でも――……。
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