【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「……はい」

 アルベール様はそれだけをおっしゃって、私に向き合ってくださった。……上手く、話せるだろうか? そう思うけれど、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせる。大丈夫。このお方はきっと――私のことを、信じてくださる。そんな確証のない気持ちが、心の中で芽生えた。

「私は、ある時からとても過保護に育てられてきました。最低限の社交以外は、カイレ子爵家のお屋敷に閉じこもって生活をしていました。……アルベール様との婚約のお話についても、両親と私、ともに初めは乗り気じゃなかった」

 私がそう言えば、アルベール様は「……そうですか」とおっしゃる。子爵家と侯爵家。釣り合わない婚約。はっきりと言えば、初めに婚約のお話をいただいた際に「何故?」と思った。カイレ子爵家にはメリットの多い婚約だけれど、クールナン侯爵家にはメリットなんて一つもないお話だから。

「それでも、私の将来のことなども考えた末に、両親は私とアルベール様の婚約を了承しました。……私はずっと、『この婚約は両親が取り付けてくれた素敵な婚約だから』と自分に言い聞かせて、アルベール様に接してきました。……まぁ、我慢も限界が来てしまったのですが」

 苦笑を浮かべながら、私は空を見上げてそう言う。アルベール様の唾をのむような音が聞こえてきたからか、少しだけ頬が緩む。アルベール様は不器用だ。そうじゃないと……あんな態度にはどう足掻いてもならないもの。
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