【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「……私が、テーリンゲン公爵家でのパーティーで倒れてしまったのは、とあるお方に会ってしまったからです。そのお方が原因で、私の両親は私に対して過保護になりました」

 アルテュール・プレスマン様。そのお方が、私の人生の負を作り上げた。そう言っても、過言ではない。幼馴染のように育ってきたのに、彼はいつだって私に意地悪ばかり。さらには、私が泣き叫ぶ顔を見て楽しそうに笑われるのだから、私が彼のことをさらに嫌いになるのは時間の問題だった。でも……彼が望んだのは、私に「嫌われる」ことだった。私の心と脳内が、アルテュール様に埋め尽くされる。それが、彼の望みだった。

「そのお方のお名前は、アルテュール・プレスマン様。……プレスマン伯爵家の、ご令息です。そして、私の幼馴染のような存在でした」

 私は空からアルベール様に視線を戻して、そう言う。「でした」というのは、彼はもう私にとって忌々しい記憶の一部でしかないから。虫を引っ付けられたり、お気に入りのワンピースに泥水を掛けられたり。それだけならば、まだ子供の戯れで我慢できた。……なのに、彼はどうしてあんな風に歪んでしまったのか。

「私と彼は幼馴染でした。でも、決して良好な関係とは言えなかった。正直、オフィエル様とカトレイン様のように幼馴染で良好な関係を築けていたらどれだけよかったかと、思っています」

 互いを想い合い、互いを尊重するお二人を見ていると、そんな叶いもしない願望が脳内に浮かんだ。もしも、彼が正常だったら……きっと、私と彼は婚約していただるおな。そうとも、思う。

「私は彼に犯罪紛いの嫌がらせを受け続けました。……それが、私のトラウマの根本で、両親が私に過保護になった原因です」

 私は一度息を吸って、アルベール様を見据えた。あぁ、少しだけ喉が渇いたかもしれない。そう思って、目の前の紅茶に口を付ける。……その紅茶の温かさに、少しだけ気分が落ち着く。

(話すって決めた。だから、私は逃げない)

 心の中で自分にそう言い聞かせて、私はまた口を開く。声が震えたのはきっと――まだ、私がその過去を乗り越えられていないから。
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