【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
第30話 向かい合う過去
「シュゼット嬢、その、無理は、しなくても……」
アルベール様はそうおっしゃって、私に手を伸ばしてこられる。だから、私は「いいえ、大丈夫です」と言った。正直に言えば、全く大丈夫じゃない。でも、今ここでお話をしないとずるずるとお話をしないままになってしまうと思う。そして、私は過去を乗り換えられないままになってしまう。
「私は、彼に様々な嫌がらせを受けました」
息を吸って、言葉を続ける。私はゆっくりとアルテュール様から受けた嫌がらせの一部をアルベール様にお話しした。ワンピースのことや、虫のこと。あと、湖に突き落とされたことや、知らない場所で置き去りにされたこと。泣き叫ぶ私を見て喜ぶアルテュール様に、殺意が湧いたこと。そんなことを、しっかりとかみしめるようにお話する。
「そ、その、それは……」
「ですが、これはまだ序の口です。私が一番嫌だったことは……小屋に閉じ込められたことでした」
見知らぬ場所で、見知らぬ小屋に閉じ込められて。真っ暗で埃っぽくて狭くて。私はあの時声が枯れるほど泣いた。そして、使用人たちが見つけてくれるまでずっと一人で孤独に耐えていた。一人で膝を抱えて、ずっと耐えていたのだ、幼い子供が。そりゃあ、トラウマになる。
「私はアルテュール様に小屋に閉じ込められて以来、暗くて狭いところが本当にダメになりました。もしも、あの時使用人たちがいち早く私を見つけてくれなかったら……そう思ったら、今でもぞっとします」