【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
 ぎゅっと膝の上に置いた手を握る。未だに鮮明に思い出せるのは、あの小屋の埃っぽさ。かび臭いにおいと、たくさんの虫。さらにはネズミなんかもいた。とてもではないが、大切に育てられた貴族の令嬢が耐えられる場所ではない。あれ以来、両親は年々過保護になった。使用人たちも、過保護になった。それは年々拍車がかかり……ここ数年の私は、必要最低限のとき以外お屋敷で過ごすようになっていた。

「アルベール様との二人きりのお茶会の日、いつも私は怖かった。何かされるのではないかと思って、眠れない時もありました。……彼とは違うって、分かっていたのに」

 声が、震えてしまう。アルベール様はこんなことを告げられて、迷惑をしているかもしれない。だけど、言わないと、言わないと。そうじゃないと余計に心配とか迷惑をかけてしまうから。不快な気持ちにさせてしまう可能性があるから。……私の、態度が原因で。

「本当に申し訳ございません、アルベール様。私、異性が苦手ということで、きっと貴方を不快にさせてしまった。……謝ります。本当に、申し訳ございませんでした」

 必死に頭を下げて、私はそう言う。正直、私の男性に対する拒絶反応や苦手意識は、ほぼ無意識のうちに発動しているものなので自分がどういう風に行動しているかは、よくわからない。だけど、きっと行っている。そんな気持ちがあった。

「……シュゼット嬢、頭を上げてください。その、俺の方が、シュゼット嬢を、不快にさせていました。だから、大丈夫です。それに、俺は貴女に不快な気持ちにさせられた覚えはない」
「……え?」
「むしろ、拒否されたり震えられたりしたら、『可愛らしいなぁ』と思っていました。どうにも俺、シュゼット嬢のすることは何でも可愛く見えるみたい……で」
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