【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
閑話7 おかしな男とアルベールの覚悟

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「……ふぅ」

 シュゼット嬢と二人きりのお茶会をした日の夜。俺は一人私室にて前々から頼んでいた調査の報告書を手に取っていた。この報告書を上げてきたのは、ずっと前から父様が懇意にしていたという探偵所。そこで、俺はシュゼット嬢の過去の人間関係について調べてもらっていた。そして、一つだけ気になったことがあった。それが……シュゼット嬢が今日話してくれた「アルテュール・プレスマン」という男についてである。

「得意魔法がおかしいんだよなぁ……」

 確かにこの世には「隠ぺい魔法」なるものはある。あが、人物そのものを隠すことはほとんどできないはずだ。物質や物体を隠すことは出来る。しかし、人間一人を隠すことなどそうやすやす出来ることではない。……シュゼット嬢は、そこまで考えていないみたいだけれど。まぁ、こういうことは魔法に通じている人しか知りようのないことなのですけれど。……俺の場合は、たまたま母方のおじさまが魔法に通じているから知っているだけですし。

「調査に出しましょうかね……。いや、そんな時間はなさそう、か」

 そう思って、俺は魔法の専門書にその報告書を挟む。前々から調べていたけれど、多分もう時間がない。シュゼット嬢の前では冷静を装っていましたが、実際俺の心はかなり焦っている。そして、アルテュールという男も。人間とは焦るとどういう行動に出るかが分からないのだ。どうにも、アルテュールは俺とシュゼット嬢が婚約したことを知って焦っているようですし。……テーリンゲン公爵家でのパーティーで接触してきたのは、大方焦ったからでしょう。
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