【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「リーセロット様」

 私がゆっくりとその名を呼ぶと、リーセロット様は目を柔和に細めて私に笑いかけてくださった。その後、一歩一歩踏みしめるかのように私の方に近づいてこられる。……その歩き方は、何処か人形のようだった。なんというか、一定の歩幅で一定のスピードで歩いていらっしゃるからだろう。

「わたくしね、貴女と、とてもお話がしたかったの」

 リーセロット様のその声は、抑揚もなくただ淡々と原稿か何かを読み上げているようだった。だから、私はそんな彼女が恐ろしくて椅子から立ち上がって後ずさる。周囲の人たちは、誰一人として私とリーセロット様の異常には気が付かない。これじゃあまるで、アルテュール様の魔法の空間にいるみたいじゃない……!

「わ、私は、何も、ありません……から」
「そんな悲しいことをおっしゃらないで。わたくしはずっとずーっとシュゼット様と、お話がしたかったのよ?」

 リーセロット様は相変わらず一定のスピードで、私に近づいてこられる。私は後ずさるけれど、距離は縮まるばかりだ。こういう時は、相手に背を向けるのはよくない。だから、落ち着くように促して後ずさりをするしかない。
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