【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「次に二つ目。何故、私と会話をする際にほとんど視線を合わせてくださらないのですか?」

 普通、会話をする際は視線を合わせると思う。しかし、アルベール様は私と会話をする際に視線をほとんど合わせてくださらない。会話をする際以外はまだ合わせるのに、会話になると途端に逸らされる。これじゃあ、嫌われていると思ってしまうだろう、誰だって。

「……シュゼット嬢の目は、とても美しいじゃないですか。それに声もとても綺麗で……。二つ同時に体内に取り入れると、尊すぎて死にそうなのです……」
「私の声と目は有害物質ですか!?」

 私はそう大声で突っ込んでしまった。そもそも、目を見ても声を聞いても体内に取り込むことにはならないと思う。このお方は、まずその部分の認識がずれている。そう思いながら、私はコホンと一度だけ咳払いをして、次の質問に移る。正直に言えば、これが一番重要な質問だった。

「最後に。何故……私のことを睨みつけていらっしゃったのですか?」

 アルベール様の目は、とても鋭い。あれで睨みつけられたら、大人でもひとたまりもなく怯んでしまうだろう。そんな目で睨み続けられること、一年と半年。私の精神と寿命がどれだけすり減ったかは、想像もできない。そういう意味を込めて疑い深い視線をアルベール様に向ければ、アルベール様は何故か赤面されていた。……いや、今回もどこに照れる要素があったの?

「しゅ、シュゼット嬢の装いとか髪型とか、全部脳裏に焼き付けたくて……。俺、集中すると目つきが悪くなってしまって。だから、睨みつけたと勘違いされたの、だと」
「……脳裏に焼き付けて、どうされるのですか……」
「そんなの、思い出して悶えるに決まっているじゃないですか! あぁ、あの装いは可愛らしかったなとか、あの装いはシュゼット嬢をうまく引き立てていたなとか。まるで女神様みたいだったなとか。あと、誕生日プレゼントを選ぶ際の参考にしたりしようかと……」
「まさかですが、私の装いを全部覚えていたり……」
「そりゃあもちろん! 婚約をする前から全部脳裏に焼き付けてノートに記録していますから!」

 ……聞きたくなかった情報、どうもありがとうございます。そう思って、私は頭を抱えたくなった。どうやら、アルベール様と私は勘違いからすれ違っていたよう。……元々、このお方は不器用なお方なのだろうな。だから、こういうことになってしまった。でも、私の中で芽生えた苦手意識は完全に消えることはないだろう。……さて、どうしたものか。

「……えっと、今教えていただいたことを踏まえると、アルベール様は私との婚約を解消したくない、ということでしょうか……?」
「もちろんですよ! むしろ、今すぐにこのまま結婚したい! それから、貴女を屋敷に閉じ込めて独り占めしたい!」

 ……本当に、聞きたくなかった言葉が聞こえてきたわ。そんなことを思いながら、私は「はぁ」と小さくため息をついた。これから、どうしよう。そう思って、私は唐突に空を見上げた。あぁ、空は青いなぁ。相変わらずアルベール様は、私のドレスを掴んだままだ。もう、執念さえ通り越して狂気にしか見えなかった。
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