【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
第34話 どうして?
私の大きな悲鳴。そして、倒れ込み起き上がらないアルベール様と、ナイフを持ったリーセロット様。そんな異常な空間を見てか、周囲の人たちがざわつく。つんざくような女性の悲鳴。慌てふためく男性の声。リーセロット様は、その場で糸が切れたかのように崩れ落ちてしまわれた。
「アルベール!」
周囲の人たちがざわめき、警備の人たちがリーセロット様を押さえこんだ頃。クールナン侯爵夫人が周囲の人たちをかき分けてこちらに来てくださった。私はただ動揺した目でクールナン侯爵夫人を見つめ、時折アルベール様の身体に触れる。でも、アルベール様はうめくだけで何もおっしゃってくださらない。……どうしよう、私の所為だ。
「アルベール!」
クールナン侯爵夫人が、アルベール様の顔色を窺い、傷口に手をかざす。必死に呪文を唱えれば、その手からは温かい光が漏れていた。多分、これは治癒魔法なのだろうな。それは、理解した。
「ヨハン! 部屋を一つ貸して頂戴! アルベールが!」
「わ、分かった、姉さん!」
そうおっしゃって、ナフテハール伯爵がどこかに走って行かれる。華やかなパーティーは、一転して事件の現場となってしまった。その原因の一つは、私。だから、私はただその場で震えることしか出来なかった。……アルベール様に手を伸ばそうとするけれど、今になって触れる資格などないと思ってしまった。