【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「……やっぱり、私の力は落ちているわね。旦那様! アルベールを運んで頂戴!」
「分かった、ティナ」

 クールナン侯爵が、アルベール様を背負ってお屋敷の方に走って行かれる。……私は、どうしたらいいの? そう思ってただその場でうずくまっていると、クールナン侯爵夫人が私の方に近づいてこられた。私、怒られるのよね。そうよ、だって元はと言えば私を庇ったからアルベール様は刺されてしまったのだもの。

「……シュゼットちゃん」
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい……」
「違う、謝ってほしいわけじゃないわ。貴女も被害者じゃない。……悪いのは、あのマーセン伯爵家の令嬢よ。ほら、きちんと落ち着いて」

 クールナン侯爵夫人が、私の背を撫でながらそうおっしゃる。だから、私は浅い呼吸を整えようと必死に深呼吸をする。でも、上手く息が吸えない。焦れば焦るほど、呼吸が浅くなる。

「うぅ、ご、ごめんな、さい……!」
「大丈夫よ。……ヨハンに頼んで、一旦屋敷の中に入れてもらいましょう。今日はこのまま解散になると思うから。落ち着くまで、私が付いているわ」

 私のことを優しく抱きしめ、クールナン侯爵夫人はそうおっしゃった。その後、しばらくして「立てる?」と問いかけてくださる。そのため、私は静かに頷いてクールナン侯爵夫人に寄りかかりながら、ゆっくりと会場を出て行った。クールナン侯爵夫人は、強い。一人息子が刺されたのに、こんな風に私のことを気遣ってくださるのだから。

「……私もね、落ち着いているように見えるけれど、実際はかなり焦っているのよ。ただ、ほら。人間って自分よりも焦っている人を見ると脳が冷静になっちゃうの。それに、私はアルベールのことも大切だけれど、シュゼットちゃんのことも大切に思っているのよ。だから、貴女にも傷ついてほしくなかった」
「うぅ……」
「だから、アルベールの判断は正しいと私は思うわ」
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