【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
 そうおっしゃったクールナン侯爵夫人のお言葉に、私は涙を零してしまった。先ほどまで、驚きから涙何て零れなかったのに。そもそも、私はクールナン侯爵夫人に責められてもおかしくなかったのに。

「ほら、一旦お茶でも飲んで落ち着きましょうね。侍女に、頼むから」

 クールナン侯爵夫人は、ナフテハール伯爵家のお屋敷の一室に私のことを案内してくださると、近くにいた侍女にお茶を頼まれていた。……そう言えば、ここはご実家なのだっけ。

「落ち着いたら、一旦カイレ子爵家に帰りなさい。そこで、まずは落ち着くことをお勧めするわ。その後、連絡をするからそれまではゆっくりするのよ。……アルベールのことは、私たちに任せて」
「……で、も」
「いいから。貴女も目の前で婚約者が刺されて、パニックに陥っているでしょうから。……まずは、ゆっくりと休むこと。アルベールが次に目覚めたとき、貴女が倒れていたらきっと悲しむわ」

 そんなクールナン侯爵夫人のお言葉に、私は頷く。とりあえず、私は落ち着く。落ち着かなくちゃ、ダメなのよね。

「迎えを頼みましょうね。大丈夫、きっと、大丈夫よ」

 そのお言葉はまるで、ご自分に言い聞かせているかのようにも、私には聞こえた。だから、私は涙を零しながらただ震えることしか出来なくて。ナイフの銀色が、未だに私の脳内に焼き付いている。……怖い。

「大丈夫よ、きっと、大丈夫だから。あの子は丈夫だし、貴女は強いわ」

 そう言い聞かせてくださるクールナン侯爵夫人に、私は抱き着いてしまった。そして、ただ神様に祈った。どうか、アルベール様が無事に目覚めて、またいつものようなバカバカしい会話が出来ますように、と。そう祈ることしか、今の私には出来なかった。
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