【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
第36話 縋るしかないけれど……

(何よ、それ……)

 私は心の中でそう呟きながら、ただ呆然とアルテュール様を見据える。彼は相変わらず緑色の目を柔和に細めている所為で、感情が全く読み取れない。アルテュール様に惚れるなんて、まっぴらごめんだ。だけど、もしもこのままアルベール様が目覚めないのならば……? だったら、私が犠牲になってでもアルベール様を救うべきなのではないだろうか。そう、思ってしまう。

「確認ですが、毒などではないのですよね?」
「あぁ、もちろん。俺はシュゼット嬢が好きなんだ。だから、殺すつもりはない」

 アルテュール様はそうおっしゃると、私の唇にさらに瓶を押し付けてこられた。……これを、飲めば。そして、アルテュール様に惚れれば。アルベール様が救えるの? そう思ったら、確かに心が揺れた。アルベール様への気持ちを理解したばかりなのに。一瞬そう思ってしまったけれど、アルベール様が助からないのならばこの気持ちは無意味だ。……だから、助けるためには。

 そう思って、私はその瓶をアルテュール様から受け取った。禍々しい赤紫色の液体は、まるで毒か何かのよう。いや、これも一種の毒なのか。惚れ薬なんて、毒に等しいものに決まっている。

「もう一度確認ですが、私がアルテュール様に惚れれば、その解毒剤をいただけるのですよね?」

 最後の確認とばかりにそう問いかければ、アルテュール様は静かに頷かれる。

「まぁ、そうだね。でも、キミが交渉を断るんだったら、瓶は割るよ。だって、必要ないからね」

 そうおっしゃって、アルテュール様は瓶を割るような仕草をされる。それが怖くて、私は小さく「飲み、ます」と言ってしまった。そうすると、アルテュール様は私の上からどいてくださる。だから、私は起き上がってその禍々しい赤紫色の瓶を見つめた。息をのんで、その瓶のふたを開ければ、中に入っている液体も同じ色。……恐ろしい、色だった。
< 127 / 142 >

この作品をシェア

pagetop