【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「さぁ、どうぞ」

 アルテュール様は私の戸惑いを感じ取ってか、私にそう告げた。私は何度も何度も飲む素振りを見せながらも、怖くて飲めなかった。……飲まなくちゃいけないのに。今はもう、この人に縋るしかないのだから。じゃないと、アルベール様は目覚めないのだ。だから、だから――。

「シュゼット嬢の躊躇う姿は可愛らしいなぁ。でも、そろそろこっちもしびれを切らしそうなんだよね」

 にこにこと笑われながら、アルテュール様はそうおっしゃる。そして「本当にそろそろ行動してくれない? 俺、結構短気だから」と私に告げてこられると、解毒剤の瓶に手をかけた。それが、怖くて。本当にこのお方は人の命を何とも思っていないのだな、と思った。それが、私の背を押してくれた、気がした。

「……うぅ」

 小さくそううめいて、私はその瓶を口に付ける。その後、ゆっくりと上を向いていく。まだ、液体は口の中には入らない。恐る恐る、その液体を飲もうとする。でも、喉が震えて、怖くて怖くて。涙が零れてしまいそうになる。そんな私を見つめるアルテュール様のエミは、忌々しい記憶の中にある笑みそのものだった。

(……さようなら)

 心の中でそう呟いて、液体に口を付けようとしたときだった。
< 128 / 142 >

この作品をシェア

pagetop