【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
 はっきりと言って、私は別にそう言うことを気にしちゃいない。そう思いながら私がアルベール様に微笑みかければ、アルベール様は「でも、正直シュゼットを独り占めしたかったですけれどね」なんて、少し困ったようにおっしゃる。だから、私はその額を突いた。

「これから飽きるほどいっ所にいるのですから、たまにはいいじゃないですか。事業の成功も、大切でしょう?」
「まぁ、そうですが……。シュゼットに苦労を掛けないように、俺頑張ります」
「その調子です」

 アルベール様のお言葉にそう返事をすると、エスメーが「そろそろ時間ですよ」と声をかけてくれた。あぁ、もうそんな時間か。

「じゃあ、シュゼット。行きましょうか」

 そうおっしゃったアルベール様が手を差し出してくださるので、私は静かにその手に自分の手を重ねた。その後、ゆっくりと歩きだす。

「アルベール様。……いえ、もう、旦那様ですかね」

 私が小さくそう呟けば、アルベール様はふんわりと笑ってくださり、「どっちでもいいですよ」と告げてこられた。う~ん、どっちでもいいって言われたら、慣れるまではアルベール様って呼んじゃいそう。だけど、いずれは変えないといけないのだから、旦那様って呼んだ方が良い気もするのよね。

「一応旦那様って呼びますが、気楽な場所ではアルベール様って呼びますね。そっちの方が、なんだか仲睦まじく見えませんか?」

 貴族の妻は夫のことを「旦那様」と呼ぶ方が多い。だけど、二人きりの時は名前で呼ぶ方もいらっしゃるのだ。私も、あんな感じが良い。

「そうですね。じゃあ、それで行きましょうか。シュゼット――大好きです」

 不意にそう声を掛けられて、私は小さく「私も、ですかね」とだけ返した。

 これからは始まるのは、私たちの新しい日々。

 一度は婚約の解消を望んだ私。だけど、結局アルベール様とともに歩いていく道を選んだ。正直、都合がよすぎるかなって思う時もあるけれど、婚約の解消をお願いしたのは間違いじゃなかったって、今ならば思う。

 だって――心の底から、気持ちが通じたから。

(大好きですよ)

 心の中でそう呟いて、私はアルベール様に微笑みかける。すると、アルベール様も微笑み返してくださった。

【第一部・完】
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