【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「分かりました。分かりましたからぁ! お願いですからアルベール様、ドレスを放してください! 千切れますから……! ドレスが千切れたら、私最悪下着姿で帰らなくちゃいけなくなるのですよ!」
「千切れたら千切れたで、俺が貴女のために密に仕立てたドレスを着ていただくので全く問題ありません。衣装室に部屋分のドレスとワンピースを、貴女のために仕立てたので」
「それは立派な無駄遣いですね……!」

 やばい。このお方、本当に手遅れだ。こんなところで侯爵家のお金と権力を使わないでいただきたい。そう思いながら私はまた呆然と空を見上げた。あぁ、空は青いなぁ……って、こんなことを思うよりもこの最悪の現状を何とかしなくては。

「シュゼット嬢! 一体、何をすれば婚約を続行してくださいますか? 死ねばいいのですか? 死ねば、俺と結婚してくれますか?」
「死んだら婚約の続行も結婚も何もないじゃないですか……。もう、面倒なのでこうしましょう」

 結局、私が折れた。だって、このお方に無茶なことを言ったら間違いなく「死ぬ」とか言い出す。死んだら婚約を続行してもらえるなどという、ぶっ飛んだ発想をするお方なのだ。……会話が、全く通じないわよね。まるで未知の生物を相手にしているみたいよ。

「とりあえず、後三か月はこの婚約を続行します。なので、その三か月の間に……」
「シュゼット嬢への愛を証明すればいいのですか? え? じゃあ、三か月の間に……」
「違います違います! 私の苦手意識を取り除いてくださいって言うことです!」

 私は慌ててそう付け足す。本日分かったことだけれど、このお方は私のことを閉じ込めたいのだと思う。先ほど、そうおっしゃっていたし、先ほどのちょっぴり虚ろな目はそう言うことだ。いくら好意が前提にあるからと言って、監禁ダメ、絶対。もちろん、暴力も暴言もダメ。行き過ぎた束縛もダメ。

「正直に言えば、私もこの婚約自体には魅力を感じています。なので、アルベール様への苦手意識さえなくなれば、私の方にこの婚約に対するデメリットはなくなります」
「分かりました。では、プレゼントは何が欲しいですか? あと、俺の想いを手紙にしたためますので、受け取ってください。この間便箋三十枚勢いで書きましたけれど、それ以上に書きますね!」
「それは突っ込み待ちですか……?」

 誰だ、勢いで自身の想いを便箋三十枚にしたためるのは。あ、目の前にいらっしゃったわ。

 目の前でブツブツと何かを唱えながら私のドレスを掴み続けるアルベール様。そんな彼に冷たい視線を向けながら、私は「はぁ」とため息をついた。……いや、本当に何故こうなった。
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