【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「いや、ただ単に大きな赤子をあやしていただけ……だと思うわ」

 そう、あれは大きな赤子の面倒を見ていただけ、みたいなものよ。ドレスを掴まれて、放すのを拒否された。その理由はアルベール様曰く、「もういっそ一緒に住みたい!」ということだった。いや、いろいろとぶっ飛んでいる。それだけならばまだしも、お姫様抱っこをされて屋敷の中に運ばれそうになったのには本気で焦った。あそこで逃げていなければ、私は間違いなく監禁されていただろう。あの目は、本気だった。今思い出しても震えてしまいそう。

「……一体、それはどういう意味で?」
「エスメー。世の中には知らない方が幸せなことだって、あるのよ」

 私だって、アルベール様のあんな本性なんて知りたくもなかった。アルベール様が私のことを嫌っていなかったことは、素直に良かった……と言える。でも、それ以上にあの執着心の凄まじさと愛情の重さは知りたくなかったと思ってしまう。

 アルベール様は、私のことをじっと見つめていらっしゃったらしい。それこそ、私が参加する数少ない社交界ではずっと私だけを見つめていたらしい。しかも、移動すればついてきていたと。……いや、それってストーカーでは? そう思って尋ねたけれど、アルベール様は「愛情があるので正当な行為!」とおっしゃっていた。うん、あのね。ストーカーって多分みんなそう言うと思うのよ。

 さらに驚いたことは、私のことを階段から突き落としたご令嬢を修道院に追い込んだのはアルベール様らしい。そのおうちの弱みをいろいろと握り、娘を修道院に送らなければ家を没落させると脅したとかなんとか。……ちなみにだけれど、私が暴言を浴びせられていたことは知らなかったそう。なんでも、私を観察するのに夢中で他人の声なんて耳に入っていなかったとかなんとか。肝心なところで、役に立っていないじゃないか。
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