【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
 それから、別れ際にアルベール様はとんでもないほど高価な宝石が埋め込まれた指輪を、私に渡してくださった。曰く、私に似合うだろうとかなんとか。いや、その前にそんな高価な宝石は身に着けられない。心の中でそう思いながらも、私は渋々指輪を受け取った。……アルベール様が引かなかったから。

『今度はドレスを用意しましょうね! あと、次会う時までに俺の気持ちを便箋にしたためておきます。五十枚ぐらいで足りるでしょうか……?』
『十枚以内でお願いします。読むのが辛いので……』
『分かりました。十枚以内にびっちりと書いて、数回に分けて送りますね!』

 それから最後に、そんな会話を交わした。その最中、私は思っていた。「……違う、そういう意味じゃない」と。五十枚を一度に送られるのと、十枚を五度に分けて送られるのでは意味が変わっていない。それどころか、郵便料の無駄になる。それに、目を通すのが大変だしそもそも置いておく場所に困る。一応、婚約者からのお手紙なので捨てるわけにもいかないし。

「エスメー。着替えたいのだけれど……とりあえず、湯あみだけさせて頂戴。準備してくれる?」
「承知いたしました。お嬢様」

 エスメーにそう指示を出せば、彼女はてきぱきと仕事に戻る。とりあえず、湯あみでもして汗を流そう。湯あみをすれば、頭がすっきりとするかもしれないし。そう思いながら、私は「ふわ~」と一度だけ大きくあくびをした。……正直、疲れたからか眠い。

「どうしてこういうことになったのかなぁ……」

 私の予想では、「婚約を解消してください」「分かりました」で終わるはずだったのに。なのに、気が付けば「捨てないで!」と縋られてドレスを掴まれて、現実味のないことを延々と聞かされた。予想していたことと正反対に近くて、頭がパンクしそうだし。

「……三か月で、私の苦手意識ってなくなるのかな……?」

 自分でこの条件を出しておいて言うのはおかしいけれど、苦手意識を三か月で解消するのってかなり難しいのでは……。そう、私は思ってしまう。でも、アルベール様だったらどんな手段を使ってでもやりそうな気がするわ。そんなことを考えて、私は小さくため息をつく。はぁ、これからどうしよう。

 この時の私は、まだ知らなかった。

 ――アルベール様の愛情の重さの、本質を。彼が、常軌を逸した執着男だったということを――……。
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