【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「お嬢様。婚約者の方がいらっしゃいました」
「分かったわ。すぐに向かうわ」

 髪の毛をセットし終えてしばらくした頃。扉越しに従者がそう声をかけてくれる。あぁ、来てしまったか。そう思うと気が重いので、私は必死に「大丈夫大丈夫」と自分に言い聞かせた。だって、三日かけて私はアルベール様のことを少しは理解した……つもりだもの。穏やかに接することが出来る……と信じたい。ちなみに自信は全くない。

 ゆっくりと階段を下りて、玄関の方に向かう。従者によれば、アルベール様は応接間で私のことを待ってくださっているらしい。……そうよね。馬車の中で待っていただきたかったけれど、相手は名門侯爵家のご令息。そんな失礼なこと、出来るわけがないわ。

「お待たせいたしました、アルベールさ……」

 応接間の扉を開けて、部屋に入ろうとした私は……一瞬で固まった。……ねぇ、何故? 何故――……。

「……アルベール様。何故、お花が応接間を占領しているのですか……?」

 入って一番。これは夢だと思いたかった。何故、こんなにもお花が所狭しと置いてあるのだろうか。うーん、観察するところ薔薇などの系統が多いかな。特に、赤色と桃色と青色。って、違う違う! こんな現実逃避をしている場合じゃない……!

「あぁ、これはシュゼット嬢へのプレゼントですよ。花をプレゼントしようと思いましたが、何を買っていいのかがさっぱり分からなくて。とりあえず、と思って買ってきました」
「いやいやいや! 待ってください! 赤色と桃色の薔薇はまだしも、青色の薔薇ってかなり高価なものじゃないですか! しかも、こんな大量を買ったのですか!?」

 青色の薔薇とは、たった一本で平民の給金一ヶ月分に相当するもの。そんな高価なものが、百本以上ある。……このお方、本当に何を考えていらっしゃるの? いや、何も考えていないからこんな頓珍漢な行動に出られるのか。はぁ、頭が痛い。
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