【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「シュゼット嬢には、青がお似合いですからね。本当はもう少し淡い系統の色が良いかなぁって思ったのですが、通りかかった花屋にはこれしかなくて……。あと、恋人に渡すには赤色とかが王道でしょう?」
「確かに赤色の薔薇は王道といえば王道ですけれど……これは、やりすぎです!」

 部屋中に散らばる、花、花、花。これじゃあまるで、花に襲撃されたみたいだ。……後片付けはともかく、どうやって運んだのかが切実に知りたい。そもそも、これは大層な無駄遣いだ。質素倹約をモットーとしているこのカイレ子爵家では考えられない行動。……金銭感覚が、合わない。正直、このお方とやっていける自信がない。

「ですが、俺の父は二部屋分を埋め尽くすような青薔薇を贈ったと言っていました。それで、母も付き合うのを了承してくれたとかなんとか……」
「それは多分、感動とか嬉しさじゃなくて、呆れから来るものですよ……」

 今、私はアルベール様のお母様であるクールナン侯爵夫人のお気持ちがよーくわかった。お花を贈られて感動する気持ちも、嬉しくなる気持ちもわかる。でも、さすがにここまでされたら感動を通り越して正気に戻る。そして、怒りが湧いて呆れる。もう、嫌だ。

「アルベール様! もう、今後こんなことは一切やめてくださいね。無駄遣いはダメです!」
「……女性は、財力があって贅沢をさせてくれる男に惹かれるのでは……? 俺、顔はまぁまぁですけれど、財力と権力はたっぷりあるので、貴女を贅沢させることは容易いですよ……?」
「まず、それは一部の女性の考えです。それ以外のパターンもあるということを、ご理解ください。あと、アルベール様のお顔が『まぁまぁ』なのでしたら、この世の男性の大半は『中の下』になります。そこをお忘れなきよう」

 もう嫌だ。そう思って、私は泣き出しそうになっていた。なのに、アルベール様は嬉しそうな表情をされる。……大方、私がアルベール様のお顔を遠回しに褒めたのが嬉しいのだろう。何故、何故私はこんなことを言っているのだろうか? あぁ、円満に婚約を解消するだけのつもりだったのに……。

(アルベール様は、優良物件じゃなくて事故物件じゃない……!)

 アルベール様との婚約が決まったとき。とんでもない優良物件との婚約が舞い込んできたなぁと思った。だけど、今ならばわかる。このお方は外見だけを整えた事故物件だ。あぁ、神様。どうか私の元に「まとも」で「素敵な」男性をよこしてください……! じゃないと、心労で倒れそうです。どうか、どうかお願いいたします……!
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