【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
第10話 重なる

「え、えっと……アルベール、さま?」

 その後の沈黙を破るように、私はそうアルベール様に声をかける。すると、アルベール様は「はい」とだけおっしゃって私の手を取り、お茶のスペースに案内してくださろうとする。大方、いつものことだからと気になさっていないのだろう。私はすっごく気になりますけれどね!

「アルベール、ちょっといいかしら?」
「……はい、母様」

 そんなとき、ふとクールナン侯爵夫人がアルベール様に声をかけられる。相変わらず腰に巻き付いていらっしゃるクールナン侯爵は無視され、私たちの方に近づいてこられた。クールナン侯爵夫人の立ち居振る舞いはとてもお美しく、気品に満ち溢れていらっしゃって。……こういうところ、私とは大違いだ。

「アルベール。私、彼女と少しだけお話がしたいわ。ちょっと時間をくれないかしら?」

 そして、クールナン侯爵夫人はそんなことをおっしゃり、私に視線を向けてこられる。どこか勝気に見える目は、迫力がある。しかし、私を見てクールナン侯爵夫人は柔和に目を細めてくださった。だから、私はホッと一息をつく。

「ですが……」
「大丈夫。悪いことはしないし何も言わないわ。ただ単に、私と同族の雰囲気があるから少しお話がしたいだけなの。……お義母さんも、こんな気持ちだったのかと思ったらいろいろと思っちゃってね。アルベールはこの人を屋敷の中に放り込んできて頂戴」
「……はい」

 クールナン侯爵夫人は、そんなよくわからないことをおっしゃって、腰に巻き付いていらっしゃるクールナン侯爵を引きはがすと、アルベール様に押し付けられていた。その後、男性二人を無視されて私の方に来られる。……い、いやいや! クールナン侯爵夫人って、社交界でも結構なを馳せている美人ですよ? 私みたいなのが側にいられる存在じゃあ……!
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