【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「あと、一つだけ忠告しておくと、逃げようと思っても無駄よ。……この家の男の執着心は、凄まじいのよ。代々、こんな感じらしいもの」
「いや、本当にどうして私の考えていることを……?」
「だって、私だったらそう思うもの。むしろ、私もお義母さんにそう忠告されたわ。あの人から逃げたくて、いろいろと頑張ったときもあったわねぇ、懐かしいわ。……すべて、無駄だったけれど」

 そうおっしゃるクールナン侯爵夫人は、すべてを諦めたような表情だった。

「アルベールが生まれたとき、あの子だけは絶対にあの人と違う性格の子に育てるって、張り切っていたわね。……昔は、まだまともだった。でも、貴女を好きになった結果暴走が始まったのよ。……遺伝って、怖いわよね」

 遠い目をされるクールナン侯爵夫人が、本当に未来の私にしか見えなかった。今のお話を聞くに、代々この家の男性はこういう感じなのだろう。そして、その度に「この子だけは違う子に育てる」と妻が思う。でも、恋をしたらすべてが台無しになってしまうということ。……恐ろしい、遺伝。

「まぁ、何かがあったら私に言ってくれればいいわ。この家の男に目を付けられた、世に言う先輩だから、いろいろと助けになることが出来ると思うのよ」
「……あ、ありがとう、ございます……!」
「ふふっ、気にしなくてもいいのよ。……私も、お義母さんが亡くなってから、同じ悩みを共有する人がいなくて寂しかったのよ」

 ……どうやら、この家の嫁姑関係はかなり良好らしい。それだけでも、かなりポイントが高い。問題は……夫となる人、なのよね。

「どうして、あんな人なのかな……」

 思わず、そう零してしまう。そんな私の言葉を聞いたからか、クールナン侯爵夫人は「大丈夫。慣れたら容赦なく殴って蹴ることが出来るようになるわ」と謎の励ましをしてくださった。自分の息子のことを、「殴って蹴って」なんて普通は言わないと思う。でも、なんだか妙な説得力があって。……このお方に、いろいろと相談してみよう。そう、心に刻み込んだ。
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