【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
第12話 お誘い
「このお菓子、とても美味しいですね」
「そうですか! では、今度からたくさん買い込んで……」
「いえ、それはやめてください。食べられる分だけにしましょう、ね?」
それから数分後。私はアルベール様といつものお茶会スペースにいた。月に二度は来ていたこの場所のことはすっかりと覚えている。でも、景色はいつ来ても変わっている。なんというか、お花一つとっても毎回変わっているし、見ていて飽きさせないというか……。
そして、私はそんな景色の中目の前に出された紅茶とお菓子をいただいていた。カイレ子爵家で飲むものよりも、数倍高価な味のする紅茶と、最近街の方で有名だという洋菓子店の焼き菓子。食べたり飲んだりするのは、最高。目の前で、アルベール様が私のことを凝視していらっしゃらなければ。
「アルベール様。私のことを凝視するのは、止めてください。あと、視線が怖いです」
「そ、そうですか……。では、出来る限り優しく見つめますね」
「アルベール様。私を見るよりも、お菓子を食べればいいじゃないですか」
出来れば、私のことを凝視するのはやめていただきたい。そう思って、私は手に持っていた次に食べようとしたマドレーヌを、アルベール様の口の中に突っ込んだ。ふぅ、これで少しはお菓子に意識を向けてくださるだろう。そう思って、私はフィナンシェをつまむ。あぁ、美味しい。
その後、しばらくの沈黙が続き私がふとアルベール様を見つめると、アルベール様は私から露骨に視線を逸らされた。いや、凝視したり逸らしたり、忙しいですね。そう呑気に考えていた私だけれど、アルベール様の頬は何処か赤く染まっていて。……なんだか、すごい勘違いをされている気がした。