【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「シュゼット嬢が食べさせてくれて、すごく美味しいですね……!」
「違いますからね!? 私から気を逸らすためにお菓子を突っ込んだだけですからね?」
「照れ隠ししなくても、いいのに」
「どれだけポジティブなのですか!」

 ネガティブになったり、ポジティブになったり忙しいお方だ。そう思いながら、私はとりあえずと紅茶を口に運ぶ。美味しいわ。そう言えば、アルベール様は先ほどから何か私にお話ししたいことがあるのではないだろうか。だって、ずっと口を軽く開いては閉じている。

「……アルベール様。何か、私にお話ししたいことでもあるのではないですか?」

 カップを元の位置に戻し、私は静かにそう問いかける。う~ん、でも、アルベール様が改まって私にお話ししたいことなどあるだろうか? ここ数日、叫ばれていることが多いし、自分がして欲しいことは泣きつきながらおっしゃるし。……本当に、婚約の解消をお願いする前とは別人だ。

「う……そ、その、一つだけ、お願いがありまして……」
「お願い、ですか?」

 言いにくそうにそうおっしゃるアルベール様を見て、私は何だろうかと考えを張り巡らせる。婚約の続行についての条件は納得していただいたし、大体のことは遠慮なくおっしゃると思う。ここまで言いにくそうにされている意味が分からない。

「どうぞ、お話しください。出来る限り、叶えようと、思いますので。あ、婚約の続行に関してはこの間の通りですよ」
「ち、違います! その……一緒に、行ってほしいところが、ありまして……」
「行ってほしいところ、ですか?」
「はい、テーリンゲン公爵家で開かれるパーティーに、一緒に参加してほしくて……」

 私から視線を逸らして、アルベール様がそうおっしゃる。……テーリンゲン公爵家で開かれるパーティー、か。

 テーリンゲン公爵家は、このセロー王国でも屈指の名門家系だ。その家の主催のパーティーには、伯爵以上の爵位を持つ貴族しか参加できない。そんな場所に、私が……? 私、子爵家の娘ですよ?
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