【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「い、いえ、アルベール様。私は、アルベール様との婚約は円満に解消したいと思っておりまして……!」

 とりあえず、私に害がないことを伝えなくては。私がこの婚約には不満を持っていなかったこと、アルベール様の所為で婚約の解消を提案しているわけではないこと。むしろ、婚約が解消されるのならば私の方に害があったことにしてもらっても構わない。私はその責任を一人背負って修道院に向かうので! 本当に、そうしてください!

 私はそう思いながら瞳をぎゅっと瞑る。殴られる? たたかれる? そんな風に思って身構えていると、何故か私の手が優しく包まれる。驚いて瞳を開ければ、そこには今にも泣きだしそうな表情のアルベール様が私の手を掴んでいらっしゃった。……いや、なんで? 本当になんで? そもそも、アルベール様今まで私に触れたことがなかったですよね……?

「あ、あの……どうし、て……」

 その「どうして」には様々な意味が含まれていた。どうして、アルベール様がそんな風に悲しそうな表情をしていらっしゃるのか。どうして、私の手を優しく包んでいらっしゃるのか。どうして、その後何もおっしゃらないのか。そんな様々な意味がこもった「どうして」をアルベール様がどう捉えたのかは分からない。ただ、悲しそうな瞳で私を見下ろすだけだ。

「シュゼット嬢は、俺のことが嫌いですか……?」

 そうおっしゃったアルベール様の声は、今にも泣きだしそうなお声だった。いや、ちょっと待って! なんでそんなにも泣きそうなの? 普通、泣くのは私でしょう? そう言いたかったけれど、そんなことを言える空気でもなく。私はただ静かに「……好きでも嫌いでもないですかねぇ」なんて嘘を言っていた。本当は違う。嫌い……というよりも苦手だ。婚約の解消を考えるぐらいには、苦手だ。

「じゃあ、どうして……?」
「どうして、なんて……その、先ほどの理由がすべてで……」

 いや、全てじゃないんだけれど。本当は一部なんだけれど。そんな副音声を心の中で付け足しながら、私はそんな事を言う。すると、アルベール様は私の手をしっかりとつかむとそのまま私の身体を引き寄せられる。さらには、私の身体をそのまま抱きしめてこられた。いや、待って待って! こういう展開、予想していなかったの!

「謝ります。俺の態度が原因なんだったら、誠心誠意謝ります。だから――どうか、婚約の解消だけはやめてください!」

 その後、アルベール様は大音量でそんなことをおっしゃる。正直、鼓膜が破れそうだった。しかも、私を抱きしめる力が強すぎる。ぎゅうぎゅうと力いっぱい抱きしめられて、私は意識が飛びそうだった。だ、誰か助けて……! このままじゃ私、抱きしめ殺される……!
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