【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
第18話 いつの日か

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「んんっ」

 目が覚めると、見慣れない天井が一番に視界に入った。ここは、何処だろうか。そう思って私は慌てて起き上がりきょろきょろと周囲を見渡す。すると、私が眠っていた寝台の隣で椅子に腰かけて優雅に本を開いていらっしゃる女性が、一人。……あの艶やかな黒髪は間違いない。いつ見てもお美しいクールナン侯爵夫人だった。

「シュゼットちゃん。起きたようね、もう、大丈夫?」
「……は、はい」

 クールナン侯爵夫人は私が起きたことに気が付かれると、ゆっくりと立ち上がって私の側に来てくださる。さらには、私の額に手を当てていた。……熱があるか、確認してくださっているのだろう。

 でも、その光景にはどこか現実味がなくて。何処かふわふわとしているような感覚だった。……あぁ、きっと寝起きだから頭がしっかりと働いていないのだわ。

「貴女、テーリンゲン公爵家のパーティーで倒れたそうよ。……アルベールが、慌てて運んできたわ」
「……ご迷惑を」
「いいえ、いいのよ。誰だって調子が悪いときはあるから。……ただ、さすがに貴女たちは婚姻前だから、ここに二人きりにすることは出来なかった。それで、私がシュゼットちゃんの看病をすることにしたの」

 そうおっしゃって、クールナン侯爵夫人はふんわりと笑われる。……そう、よね。いくら婚約者同士とはいえ、まだ婚姻前だからこういう空間に二人きりには出来ない。それは分かる。それに、素直にこっちの方が助かっている。……アルベール様を信頼していないわけじゃないけれど、何をされるか分かったものじゃないから。あ、これを信頼していないというのか。
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