【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「嫌なことも、良いことも。全部共有した方がいい。それに、この家の男は執着した女性には死ぬまで尽くしてくれるから。……アルベールは、シュゼットちゃんを裏切らない。それは、断言できるわ」
「……いつ、か」
「そう、それでいいの。気が向いた時でいいし、自分の中で踏ん切りがついた時でもいい。自分が受け入れられないことを人に話すということは、とても難しい。だから……いつかの日にって言うこと」

 そのお言葉には、何故か強い力がこもっていた。何故だろうか。何故……クールナン侯爵夫人は、ここまで私に良くしてくださるのだろうか? 私が義理の娘になるから、というだけではない気がする。

「……シュゼットちゃん。私は、貴女と昔の私を勝手に重ね合わせてしまっているの。だから、貴女の力になりたいって思ってしまう。……誰も信頼できなくて、一人ぼっちで戦うのもいいかもしれないし、美徳でしょうね。だけど……絶対的な味方がいると変わるものでもある。……私も、それを教えられたから」

 クールナン侯爵夫人はそうおっしゃると、私の髪を撫でてくださった。……そして、分かった。このお方は、昔から強かったわけではないのだと。昔は、私と同じで弱い部分があったのだと。

「まぁ、貴女の場合は周りが信頼できないというよりも、周りに心配をかけたくないという気持ちの方が強そうだけれど。じゃあ、とりあえずアルベールを呼んでくるわ。……侍女同席になるけれど、少しお話して頂戴」

 立ち上がり、扉に近づきながらクールナン侯爵夫人はそうおっしゃった。だから、私は自分にかけられていた毛布をぎゅっと握った。

(アルテュール様とのこと、アルベール様にいつか、お話しなくちゃいけない……)

 自分の心にそう刻み付けて、私は下唇をかんだ。いつか、話せる日が来たらいいな。そう思ったけれど、それよりも先に三か月の約束の日が来る気がする。……まだ、婚約が解消されるか続行されるかは分からないけれど。それでも。少しでも。アルベール様のことを信頼できたならば。そう、思った。

「シュゼット嬢! 起きたのですね……! 無事だった、よかった……!」
「あぁ、もうっ! 私はそう簡単に死にませんからね。だから、離れてください! 涙とか諸々で服が汚れちゃいます!」

 でも、抱き着かれて服に顔を押し付けられるのはちょっと……いや、かなり困る。あぁ、このワンピースはクールナン侯爵家のものなのにな……。私に、弁償できるわけがないじゃない! そう言う意味を込めて、私はアルベール様の頭を軽くはたいた。これが、慣れとかいうものなのだろうか。……あぁ、恐ろしい。
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