【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
第19話 風邪を引きまして

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「熱は高いですが、大方精神的な疲労が原因だと思われます。ただ、出来れば五日程度は安静にされた方がいいかと」
「……そうですか。ありがとうございます」

 人のよさそうな顔をした侍医は、それだけを残して私のお部屋を出ていく。私の診察に付き添ってくださったお母様は、侍医を玄関まで送っていくと私に耳打ちされると出ていかれた。……はぁ、絶対に侍医の言う通り精神的な疲労だわ。覚えがありすぎるもの。

「三十八度も熱があるのですから、しばらくゆっくりとしてくださいませ。お嬢様」
「……分かっているわよ。さすがに昔みたいに走り回らないから……!」

 エスメーの言葉に、私はそれだけを返した。確かに十歳を迎えるまで、私は三十八度の高熱を出してもピンピンとしてお屋敷中を走り回っていた。でも、今はもうそんな元気がない。むしろ、三十七度後半でも辛いくらい……。しかしまぁ、またやってしまったなぁ……。

「お嬢様。お嬢様は無理をしすぎなのですよ。だから、こんな風に風邪を引いてしまうのです」
「うぅ、何も言えないわ……」

 私の額に置いてある濡れタオルを取り換えながら、エスメーはそんなお小言をぶつけてくる。私にとってエスメーはお姉さんみたいな存在だから、エスメーの言うことには基本的に逆らえない。そう言えば、私がエスメーに懐いたのは年の近い侍女が彼女しかいなかったからなのよね。彼女、確か十二歳からカイレ子爵家に従事してくれているし。今年で七年目だっけ。

「ほら、お嬢様。早く直して婚約者の方に無事を知らせなくては」
「……勝手に死んだみたいにしないでよ……」
「今のお嬢様、死にそうなお顔をしていらっしゃいますから」

 クールナン侯爵家のお屋敷から帰ってきた日の夜。私は熱を出した。朝になっても下がらなかったため、一応ということで侍医を呼んだのだ。その結果告げられた診断が、あれだ。……精神的な疲労。間違いなく、アルベール様の所為だわ……!
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