【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「アルベール様の分は?」
「あぁ、俺の分は別に屋敷に置いてきました。これはカイレ子爵家の分です」
「……ありがとう、ございます」

 そのお言葉を聞いて、私は素直にお礼を言えていた。プリン、かなり美味しそう。そう思いながら、私はエスメーに紙袋に入ったプリンを手渡して、冷やしておくようにと指示を出した。エスメーが出ていくと、別の侍女が入ってくる。そりゃあ、さすがに未婚の男女を婚約者同士とはいえ、二人きりには出来ないわよね。

「シュゼット嬢。あのですね~」

 その後、アルベール様は様々なお話をしてくださった。お話のメインは、クールナン侯爵家の日常だ。曰く、またクールナン侯爵が夫人を怒らせて殴られたらしい。……いや、それを平然と話すアルベール様もアルベール様ですよね……。

「アルベール様、お茶のおかわりをどうぞ」

 アルベール様とお話をしていると、ふとエスメーがお茶のおかわりを持ってきてくれる。それから、テーブルの上に並べられたのは小さなカップケーキ。……料理人、本日アルベール様がいらっしゃると聞いて、作ってくれたのね。

(……アルベール様に、いつか過去のことを話さなくちゃ……)

 私は心の中でそうつぶやきながら、目の前で美味しそうにお茶を飲まれているアルベール様を見つめた。その仕草は、とてもお美しくて。……あぁ、このお方はやっぱり侯爵家の嫡男なのだと、思った。

「シュゼット嬢、聞いていますか?」
「え、えぇ、聞いていますよ」

 私はアルベール様に顔を覗き込まれたので、慌ててそう答える。あぁ、しかし、しつこいなぁ。でも、少しだけ。本当に少しだけだけれど、見直したかも。心の中でそう思い、私は「きちんと、聞いていますよ」と付け足した。まぁ、この「見直した」という気持ちは、今の段階ではご本人に伝えるつもりはないのですけれどね!
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