【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
 そうおっしゃったアルベール様が、じりじりと私との距離を縮めてこられる。無理。そんなの……無理! そう言うことをする覚悟が、今の私にはない。うぅ、どうやって断ろう……。

「そ、その、私今、風邪気味ですので……治ってからに、していただければ、と。移ると、大変なので……」
「むしろ、俺に移せば軽くなりますよね? 俺、シュゼット嬢からのプレゼントだと思ったら風邪でも嬉しいですから……!」
「そのポジティブ思考、素晴らしいですね。ですが、私の罪悪感がとんでもないことになりそうなので、そう言うのは止めていただけると」

 私ににじり寄ってこられるアルベール様と、逃げようとする私。もうここはとんでもない空間になっていた。私を抱きしめたいアルベール様と、抱きしめられたくない私。この攻防戦、勝つのはどちらか……! って、こんなことを考えて現実逃避している場合じゃないわ。何とかして、納得していただかなくちゃ。

「シュゼット嬢!」
「無理です! 絶対に無理です! そもそも、私はまだアルベール様に苦手意識があるのです!」

 もう、そう言うことしか出来なかった。

 アルベール様は馬鹿正直だ。

 アルベール様は愛が重い。

 アルベール様は若干変態である。

 それでも、悪いお方ではないということだけは、知っている。私には嘘をつかない方だということも、知っている。

 でも、でも――……!

(愛が重すぎて、事故物件化しているのよ……!)

 重すぎる愛ゆえに、事故物件となっているアルベール様。お屋敷だったとしたら、その愛の重さで屋根がつぶれている。むしろ、地盤沈下くらい起こしていそう。地面が、可哀想。

「せめてその愛の重さを直してから、私に迫ってくださいよ!」

 逃げ場を失った私は、そう叫ぶことしか出来ない。浮気されるよりはマシかもしれないけれど。でも、この愛情は私一人で受け止めることが出来ない。本当に重すぎる。

「嫌です! 俺のこの愛情はシュゼット嬢にしか向けれらないのです。シュゼット嬢限定の愛情なのです!」
「一人分にしては重すぎます! これ、多分百人分の愛情です!」
「いいえ、普通の人で数えたら千人分です!」

 そこは自慢するところじゃないです! そう言う意味を込めて、私はアルベール様の頭を軽くはたいた。……やはり、慣れというものは心底恐ろしいものだった。
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