【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
「じゃあ、手紙を書き終わったら花屋に行ってきます。……あと、明日馬を借りてもいいでしょうか?」
「……何をするつもり?」
「いえ、領地にある行列が出来る洋菓子店に馬を走らせて行ってきます。そこのプリンが絶品だと聞いたので……明日の手土産にします」

 俺がきらきらとした目でそう言えば、母様は「もう、何も言わないわ……」と言いました。どうやら、匙を投げられてしまったよう。比較的いつものことなので気にしたら負けですね。

「あ、アルベール。それだったら、俺とティナの分も買ってきて。その分の金は渡すから」
「……はぁ」

 そんな時、ふと父様が俺に対してそう言います。……父様、プリンなんて食べましたっけ? そもそも、この人は妻と一緒に食べるもの以外は味がしないとか、ふざけたことを言っていましたけれど……。その気持ち、少しは分かるようになりましたね。シュゼット嬢と一緒に食べると、美味しさ十割増しですからね!

「……旦那様、プリンがお好きでしたっけ?」
「ううん、ティナが好きだったでしょ? ティナが口に入れるものは俺も口に入れたいから。……あと、ティナに食べさせてもらいたい……!」
「……旦那様、ご自分の年齢をしっかりと思い出してくださいませ。もう、そんなことをする年齢ではないでしょう?」
「いーやーだー! ティナに食べさせてもらう!」

 そう言って、父様が突然暴れだす。……なんだか、見ていてすごく恥ずかしい光景なのですが……。でも、俺もシュゼット嬢に食べさせてもらえるのならば、あれくらい普通にしてしまいそうですよね。ちょっぴり反省、ですよ。

(いや、ああやって駄々をこねれば、シュゼット嬢は最終的に折れてくれるでしょうし、そもそも冷たい視線が見られるのでは……!?)

 あぁ、でも冷たい視線でシュゼット嬢が俺のことを見つめてくれるのならば、駄々をこねるのもありですね。シュゼット嬢、最近呆れたような視線は多々見せてくれますが、冷たい視線はあまりないですから……。

 そう思ったら、ペンを動かす手が早くなりました。あぁ、早く明日になればいいのに。あと、シュゼット嬢に叶えてほしいお願いリストも作らなくちゃいけませんよね。そんなことを考えながら、俺は想いを綴った便箋を封筒に入れ、花を買いに走るのでした。
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