【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
 そうおっしゃったアルベール様が、私に頭を差し出してこられるので私はその頭をゆっくりと撫でてみた。アルベール様の髪の毛は、私とは違い硬めで。なんだか、触っていてチクチクとする。だけど、触り心地が悪いわけではない。……って、私もかなり久々の街で浮かれているわね。普通の精神状態だったら、街中でこんなことしなかったわよ。

 街中は、すごくきらきらとしていた。ただの街灯も、ただのレンガの壁も、私からすればきらきらとしたものの一つ。通り過ぎていく笑顔の人々も、何だろうか、すごく新鮮で。……ずっと、引きこもりがちな生活を送ってきたからか、この光景はすごく眩しかった。

「シュゼット嬢は、あまり街に来たことがないそうですね。にぎやかな場所、苦手でしたか?」
「……いえ、単に両親が過保護だっただけですよ。いろいろと、幼い頃にあったので」

 アルベール様から視線を逸らして、私はそう言う。正直、まだアルベール様に過去のことをお話する勇気はない。それでも、いつかは、いつかは放さなくちゃいけないって分かっている。それが、余計に焦りを生んでしまっているのかもしれない。……このままじゃ、ダメだ。

「シュゼット嬢……」
「あ、アルベール様も、なんだか過保護になりそうですよね。特に、娘とかに」

 話を逸らさなくちゃ。そう思って、私はそんなことを言ってしまった。すると、アルベール様は「娘……」なんて微妙なお顔をされていた。言ってはいけないこと、だっただろうか?
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