【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
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「美味しかったですね~。シュゼット嬢と一緒に食べると、十割増しくらいで美味しく感じます!」
「そうですか。私は普通ですね」

 カフェを出て、二人で並んで歩く。相変わらずアルベール様は私の手首を掴んで離さない。……手、繋ぐことくらい許可した方が良いのだろうか? う~ん、でも……。

(やっぱり、無理だわ……)

 なんというか、私の潜在意識の中にある男性に対する苦手意識が、それを拒否してしまう。最近、マシになっていたのに。やっぱり、アルテュール様の所為……なのよね。

「アルベール様。あのですね――」

 私が、アルベール様のお顔を見上げて声をかけようとしたときだった。アルベール様が、突然前のめりになられる。それは、後ろから誰かがタックルしてきたからで。……って、誰?

「アルベール様! ここで会えるなんて、まさに運命ですわね!」
「……だれ、ですか?」

 そのまま、その誰かはアルベール様の腰に手を回される。よくよく見なくても、その誰かは女性だった。美しい茶色の髪をガンガンに巻いており、その髪型は一部では「縦ロール」と呼ばれているものだ。その身に纏っているワンピースは高価なものであり、後ろには何人もの従者が大きな荷物を持って控えている。……貴族のご令嬢、か。

「……もう一度訊きます、誰ですか?」

 だけど、アルベール様はそのご令嬢を引きはがすと、強くにらみつけてそう尋ねていらっしゃった。でも、そのご令嬢は負けない。ぷくぅと頬を膨らませ、とても可愛らしい表情を浮かべる。その後、私のことを軽く一瞥されると「はっ」と意地悪く笑われた。……感じ悪い。

「アルベール様は、わたくしのことを覚えてくださっていないのね。わたくしはアルベール様の婚約者候補の筆頭だった、リーセロット・マーセンですわ!」

 そうおっしゃったご令嬢――リーセロット様はその縦ロールを手で華麗に払うと、アルベール様に微笑みかけていらっしゃった。
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