【完結】素っ気ない婚約者に婚約の解消をお願いしたら、重すぎる愛情を注がれるようになりました
 それに、何故だろうか。お出掛けの最中、確かに私はアルベール様に過去のことをお話したいと思ってしまった。彼だったら、私の過去のこともきちんと分かってくださるのではないかって。そう、思ってしまうのだ。期待して裏切られるのは嫌なのに。でも、そう思ってしまった。

「……ねぇ、エスメー」
「はい、お嬢様」

 私はふとエスメーに声をかける。エスメーは何でもない風を装って私の側に来てくれた。こういうところが、私がエスメーのことが好きな理由だ。触れてほしくないところには、触れてこない。それがどれだけありがたいかを、無神経がどれだけ辛いかを、分かってくれている。

「……私、アルベール様に過去のことをお話しようと思うのよ」

 目元から手をどけて、天井を呆然と見上げる。その後、そう言った。それからしばらくして、エスメーの「いいのですか?」という言葉が聞こえてくる。だから、私はただ静かに首を縦に振る。女に二言はない。だから、もう話すと決めた。

「だって、いつまでも隠すわけにはいかないもの。それに、もしかしたら私はトラウマの所為でアルベール様のことを不快にしてしまっているかもしれないわ。……そのことも、謝りたいのよ」
「……お嬢様の婚約者の方は、そんなことを思っていらっしゃらないと思いますよ」
「かもしれないわね。でも、これは私なりのけじめよ」

 天井を見上げたまま、そう言う。もしかしたらだけれど、話すことで私の中の何かが変わるかもしれない。それに、アルベール様に話すことは私にとってはけじめの一つなのだ。それ以外では、ない。
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