別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
1 恋は壊れるもの
恋なんていつか壊れるものじゃない。だからこんなの平気。
目の前の、ついさきほどまで彼氏だった緒方浩之は悲しみの原因がそこにあるかのように悲壮な顔でテーブルを見つめている。
ふられた側よりふる側が泣きそうだなんて、変なの。
百合宮冬和はアイスコーヒーを一口飲む。
いつものカフェだった。クーラーで涼しい店内に落ち着いたジャズが静かに流れている。
会社から駅までの途中にあるが、大通りから一本奥まっているから会社の人は来ない。
一年前に見つけ、ときおり息抜きに立ち寄っていた。
彼と付き合ってからは、彼とも通ったカフェ。
彼女の避難所のようなここで、別れを告げられた。ほかに好きな人ができた、と。
「広瀬杏奈さんでしょ?」
たずねると、浩之はびくっと体を震わせた。
「噂になってたわよ」
彼はのろのろと顔をあげ、自嘲気味に笑った。
「冷静にそんなこと言えるなんて、俺のこと好きじゃなかったんだね」
冬和の頬がひきつった。
謝罪もなく、心変わりを棚にあげて非難してくるなんて。先月三十歳になった男が。
別れを告げられ、傷付かないとでも思うのか。冬和はもう二十七歳、十代のような傷付きやすさはなくなったが、ダイヤモンドのように硬いわけでもない。
冬和はコーヒーカップの取っ手をするりと撫でた。
冬和と浩之は職場で公認の仲だった。
彼からの告白で、好ましく思っていたので交際を了承した。
浩之が秘密にすることじゃないと周囲に言ってしまったがための公認だった。
目の前の、ついさきほどまで彼氏だった緒方浩之は悲しみの原因がそこにあるかのように悲壮な顔でテーブルを見つめている。
ふられた側よりふる側が泣きそうだなんて、変なの。
百合宮冬和はアイスコーヒーを一口飲む。
いつものカフェだった。クーラーで涼しい店内に落ち着いたジャズが静かに流れている。
会社から駅までの途中にあるが、大通りから一本奥まっているから会社の人は来ない。
一年前に見つけ、ときおり息抜きに立ち寄っていた。
彼と付き合ってからは、彼とも通ったカフェ。
彼女の避難所のようなここで、別れを告げられた。ほかに好きな人ができた、と。
「広瀬杏奈さんでしょ?」
たずねると、浩之はびくっと体を震わせた。
「噂になってたわよ」
彼はのろのろと顔をあげ、自嘲気味に笑った。
「冷静にそんなこと言えるなんて、俺のこと好きじゃなかったんだね」
冬和の頬がひきつった。
謝罪もなく、心変わりを棚にあげて非難してくるなんて。先月三十歳になった男が。
別れを告げられ、傷付かないとでも思うのか。冬和はもう二十七歳、十代のような傷付きやすさはなくなったが、ダイヤモンドのように硬いわけでもない。
冬和はコーヒーカップの取っ手をするりと撫でた。
冬和と浩之は職場で公認の仲だった。
彼からの告白で、好ましく思っていたので交際を了承した。
浩之が秘密にすることじゃないと周囲に言ってしまったがための公認だった。
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