別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
仕事を終えるころには疲労でぐったりしていた。
こんなときに気分転換できる喫茶店もないなんて。
退勤後は重い体をひきずって駅に向かう。大気には昼間の熱が残り、体力をさらに奪う。
「お姉さん、見つけた!」
明るい声がして、冬和は振り返った。
甘い微笑を浮かべた青年がいた。やわらかそうな茶髪が彼を彩り、ぱっちりした目が冬和をにっこりと見つめている。白地に斜めの黒い模様が入ったスエットに、ゆったりした黒いボトムをはいていた。
「どちら?」
「先週、別れ話にお姉さんを巻き込んじゃって」
あのときの、と思い出す。
「ごめんなさい。お詫びできなかったから探してたんだ」
少なからず驚いた。
どこの誰とも知れない相手を探すなんて大変だっただろうに。
「お詫びにお茶をおごらせて」
「いらないわ。あなたが殴ったわけでもないし」
「クールだね」
彼は目だけで笑う。それだけで甘い雰囲気が漂った。この歳にしてこの色気はどういうことだろう。
「年下におごってもらうほどお金に困ってないの。学生でしょ?」
「オレ、御曹司だから大丈夫」
「そうなの」
「信じてないね」
「慰謝料三百万円が払えないって言ってたし、御曹司ならもっとにぎやかなところで遊ぶでしょ」