別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
 あれは冬和が「なにがあったの?」と聞くのを待っていたのだ。
 だが、冬和はスルーした。
 そのまま杏奈は言い出せず、だからこんな時間になってから持ってきたのだ。

 どれだけ注意しても、杏奈はいつもこうだ。
 ほぼアウトの時間になってから、助けを求めて来る。
 仕事だから、ほかの人に迷惑をかけたくないから、冬和は後始末をする。

「私も手伝うから、まずここを修正して。使うのはこっちの資料の……」
「でもぉ」
 杏奈はうつむき、もじもじと腰をくねらせる。

「今日は母の体調が悪くて、早く帰る約束をしてて……」
 身内の体調不良を持ち出されては、その真偽を確認しようがない。
 冬和はため息をついた。

「わかったわ。やっておくから」
 杏奈はあからさまにほっとした顔になった。
「ありがとうございます!」
 うきうきと彼女は帰り支度を始める。
 冬和はうんざりとため息をついた。



 結局、三時間かけて直して担当にメールで送った。
 今日中に終わらせた自分をほめたい。
 よろよろと会社を出ると、ぬるい空気がじめじめと肌にまとわりつく。

 駅に向かうと、昨日の青年が冬和を待ち構えていた。
 綺麗めカジュアルに身を包み、歩道のガードパイプに腰掛け、長い脚を投げ出してスマホを見ていた。が、冬和に気づいて軽く手を振る。
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