別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「遅いね。だいぶ待ったよ」
 冬和はけげんに彼を見る。
「何も約束してないわ」
「そうだよ。オレがあなたに会いたくて待ってたんだ」
 彼は甘いまなざしを冬和に向ける。

「お茶、行ってくれるよね」
「もう待ち伏せしないと約束するなら」
「もちろん」
 彼は顔中で輝くように笑った。



 彼はそこからほど近い喫茶店に彼女を連れて行った。
 昔ながらという佇まいだった。入口は左右の植木でわかりづらく、上部の赤く丸っこいビニール屋根は色が褪せている。そこにはかつて白かった字で『LONELINESS』と書かれていた。孤独。だからこんなにも人を拒絶する入口なのだろうか。

 店内にはベロアの椅子が置かれ、濃茶の木製テーブルがレトロな雰囲気を醸し出していた。
「こんなところがあったのね」
「静かだし、喫茶店なのに遅くまで営業してるんだ」
 こじんまりした店で、客も少なかった。ほどよい涼しさが心地良い。
 二人ともアイスコーヒーを注文した。

「また会ったんだから運命だよ。名前を教えて」
「待ち伏せしてたくせに。ずいぶんと便利な運命ね」
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