別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
 それを半年で反故にされるなんて。だったら周りに言わなきゃ良かったのに。
 今日この日を迎えるまで、ずっとやきもきさせられた。
 杏奈が彼に近づくたび、声をかけるたび、心は焼けた。
 彼の負担にならないように抑えて来た。

 ただの仕事仲間、距離感が人と違うだけで悪気はないのだ、だから彼も少しだけ彼女と近いけれど心変わりではないのだ。ずっとそう思うとしてきた。

 情熱的ではないが、ちゃんと好きだった。
 なのに、冷たい女のように言われてしまう。
 それがおかしくて、冬和は微笑して彼を見た。

 浩之は不快そうに顔をしかめた。
「そうやって男をバカにするの、よくないよ」
 バカにしてるのはあなたじゃない。反論は言えないまま心の中だけで響く。

 しょせんそんなもの、というあきらめが満ちる。
 失恋なんて世の中によくあること。嘆くほどでもない。
 だからほら、涙は出ないじゃない。

「職場の人たちには、あなたが説明してね。あなたが心変わりしたんだって」
 声に冷たさがこもるように気を付けた。
 浩之は無言で席を立ち、カフェを出た。

 残された伝票に、冬和はため息をついた。
「別れるときくらいおごりなさいよ」
 むしろ、自分が彼の分まで払うことになった。

 再び深いため息をついて、冬和はコーヒーを飲んだ。
 酸味のある苦さが口の中に広がった。
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