別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「駆け引きのない相手って、こんなに楽なんだね」
 彼はくつろいだ笑顔を見せた。
「お姉さんがオレに興味ないのが、すごく楽。最初はさみしかったけど」
「人が自分に興味をもって当たり前だったのね」

「昔からモテたから。顔とスタイルと肩書で。でもって、ついオレもサービスしちゃうから疲れちゃう」
「大変ね。モテない人生で良かったわ」
「そんなにきれいなのに?」
「そうなの」
 お世辞に反応するのもめんどくさくて、冬和は肯定した。
 ふふっと久遠は笑った。

「社長に、本当の愛を知らないのねって言われたんだ。社長は知ってるのって聞いたら、知らない、だって。おかしくない?」
「本当の愛って正体不明だものね。自分がそうだと思ったらそうだ、でいいんじゃないの?」

「お姉さんは知ってる?」
「知らなくても生きていけるし、そもそもそんな重荷は背負いたくないわ」

「ああ、それわかる」
「愛がすべてじゃないわよね。みんなもわかってるはずなのに」

「どうしてだろ?」
「本能だから? だけどつきつめると生殖の本能よね」

「身も蓋もない。本能にもとづく情欲」
 久遠が楽しそうに笑む。
「欲の方がはっきりしてていいわ」
 恋よりも愛よりも確実でわかりやすい。
 くっきりと浮かびあがって、迷うことがない。
< 25 / 62 >

この作品をシェア

pagetop