別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「落ちてくれないなあ」
「落とそうとするのがくせになってない? 職業病」
「そうかも」
 久遠が甘やかに笑う。目に色気が宿り、冬和は少し見とれた。

「お姉さんの好きな物ってなに?」
「唐突ね」
「お姉さん——冬和さんのこと、知りたい」
「それも惚れさせるテクニックなの?」
「今回は単純に興味」
 冬和は目を細め、空を見上げる。

 夜空がいつもよりきれいに見えた。
 彼は居心地がいい。恋とか愛とか、そんなものを意識しなくてすむ。
 冬和は思いつくままに好きなものを羅列した。

「冬の朝の冷たい空気、月の明るい夜、車の中で聞く雨音、深夜に通り過ぎる車の音。夜のまっ暗で怖い河原、寒い冬のあたたかい毛布の感触、おいしいチョコレートを食べながらコーヒーを飲む時間」

「たくさんあるんだね」
「そうね」
「その中にオレも入れてくれない?」
「嫌よ」
「ちぇっ」
 口をとがらせる彼に、冬和はまた笑った。
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