別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない



 今出て行くと駅でかち合ってしまう。
 少し時間をつぶそう。一人暮らしだから遅くなっても咎める人もいない。

 冬和はバッグから文庫本を出した。
 電子書籍より紙の本が好きだった。いかにも本を読んでます、という雰囲気も含めて。

 彼と付き合う前も、なんとなくそのまま帰りたくないときにはここで本を読んだ。
 喫茶店での読書は特別感があって、いい息抜きになっていた。

 だが、今は内容が頭に入ってこない。
 さすがに無理か。
 本を閉じ、スマホを出す。どれくらいしたら出て行こうかと考えながらニュースを流し読みする。

 ミソノ商事、業績予想を上方修正。
 目に留まった記事にため息をつく。こんな大会社で業績が上がったなら給料も上がるだろう。うらやましい。

 いらっしゃいませ、と声が響いた。
 目を向けると、歳の差カップルが仲良さげに腕を組んでいた。

 彼らは隣の席に座った。背の高い軽やかな茶髪の男性は大学生ほどで、目のぱっちりした美形だった。女性は三十を過ぎていそうだった。

 私ならこんな年下は嫌だな、と冬和はスマホに目を戻す。

「だんなとは別れたの」
 注文を終えた直後、女が言う。悲しみよりも喜びと期待が含まれていて、冬和は違和感を持った。野次馬根性が湧いて、聞き耳をたててしまう。

「だから、ね?」
 女の媚びるような声。
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