別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
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翌朝、冬和は出勤の途中、唐突に現れた人物に行く手を阻まれ、足を止めた。
綺麗な女性だった。長い黒髪を軽やかにカットにしていて、ナチュラルメイクで落ち着きのあるスーツを着ていた。その表情は暗い。
ビルに囲まれた歩道には出勤途中の人々があふれ、二人を邪魔そうによけて歩いて行く。
「あなたが久遠の新しい恋人?」
すでに暑い日差しの中、彼女は陰鬱に冬和を見る。
「違います」
冬和は即答した。
彼の名前が出たということは、彼の関係者……仕事の相手だろうか。
それとも同居の女性だろうか。どうやって冬和を知ったのだろうか。
「じゃあ、友達?」
女は顔を上げて冬和を見た。泣きそうな顔だった。
「……違います」
恋人どころか友達の距離感でもない。ふわふわした存在。彼との関係に名前などつけたくない。
「彼をとらないで」
女の目から大粒の涙がこぼれた。
冬和は困惑した。
「私のものじゃないから、お答えできません」
女はその場に座り込み、泣き崩れた。声をあげ、両手で顔を覆い、ときおりしゃくりあげる。
周囲を歩く人がじろじろと二人を見て通り過ぎる。
「あの……」
戸惑いながら声をかけると、彼女はばっと立ち上がり、走り去る。
冬和はため息をつき、再び会社に向かって歩き出した。
女の泣き声がいつまでも耳にはりついて、胸には苦いものが残った。