別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない

***

 翌朝、冬和は出勤の途中、唐突に現れた人物に行く手を阻まれ、足を止めた。

 綺麗な女性だった。長い黒髪を軽やかにカットにしていて、ナチュラルメイクで落ち着きのあるスーツを着ていた。その表情は暗い。

 ビルに囲まれた歩道には出勤途中の人々があふれ、二人を邪魔そうによけて歩いて行く。

「あなたが久遠の新しい恋人?」
 すでに暑い日差しの中、彼女は陰鬱に冬和を見る。

「違います」
 冬和は即答した。
 彼の名前が出たということは、彼の関係者……仕事の相手だろうか。
 それとも同居の女性だろうか。どうやって冬和を知ったのだろうか。

「じゃあ、友達?」
 女は顔を上げて冬和を見た。泣きそうな顔だった。
「……違います」
 恋人どころか友達の距離感でもない。ふわふわした存在。彼との関係に名前などつけたくない。

「彼をとらないで」
 女の目から大粒の涙がこぼれた。
 冬和は困惑した。

「私のものじゃないから、お答えできません」
 女はその場に座り込み、泣き崩れた。声をあげ、両手で顔を覆い、ときおりしゃくりあげる。
 周囲を歩く人がじろじろと二人を見て通り過ぎる。

「あの……」
 戸惑いながら声をかけると、彼女はばっと立ち上がり、走り去る。
 冬和はため息をつき、再び会社に向かって歩き出した。
 女の泣き声がいつまでも耳にはりついて、胸には苦いものが残った。
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