別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「君は男に逃げるタイプじゃないよな」
 わかっているのに、難癖をつけるのか。
 思ううちに、抱きしめられた。コーヒーを持っているから、こぼすのが嫌でふりほどけない。

「寂しいときは呼んで。そばにいてあげるから」
 背筋がぞわっとした。

「二股の相手になれって?」
「下世話なこと言うなよ。君をわかってあげられるのは俺くらいだろ」
「気持ちわる。離して」
「嫌だ」

「離さないと大声出すから」
「出してみろよ」
 冬和は歯噛みした。冬和が目立つことを嫌がるとわかっていてそう言うのだ。

「離してったら」
 いっそコーヒーをぶっかけてやろうか。だが、それだと自分もコーヒーをかぶってしまう。

「浩之さーん」
 甘ったるい声とともに杏奈が現れた。
「なにしてるのよ!」
 浩之に抱きつかれる冬和を見て、杏奈は大声を上げた。

「いや、これは」
 浩之はすぐに手を離した。
 冬和はその隙に給湯室から逃げ出した。
 なんて間の悪い。これでまた悪く言われるだろうか。まったくさんざんだ。

 席についた冬和は、災厄から逃げきれなかった。
「ひどいです!」
 ぼろぼろと涙をこぼしながら、追い掛けてきた杏奈が言う。
< 35 / 62 >

この作品をシェア

pagetop