別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「私が浩之さんとつきあってるの知ってますよね! とるんですか!?」
 目の前で泣かれて、冬和は困惑しながらコーヒーを飲んだ。

 きっとシュールな図だな、と頭の隅で思う。こんなときにこんな行動をするから薄情だのなんだの言われるんだろう。まさか動揺の反動だなんて思ってはもらえない。
 そもそも奪ったのは杏奈だが、言ったところで虚しいし、こじれるだけだ。

「とる気はないから、安心して」
「嘘ばっかり!」
 わあああああ! と大声で彼女は泣く。

「仕事できないと思って下に見てたでしょ! だから浩之さんをとったの! だけど今は本当に愛してるの! とらないで!」
 周囲の人は遠巻きに囲んでみているだけで、誰も止めには入らない。
 そりゃそうか、と嘆息する。巻き込まれたい人なんていないもんね。

 当事者の浩之はどうして止めに来ないのだろう。
 給湯室を見ると、隠れるようにしてこちらを覗いている。
 にらみつけると、ようやくおずおずと歩いて来た。

「杏奈、不安にさせてごめん」
 彼が声をかけると、杏奈は彼に抱きついた。
「愛してるのぉ!」
 彼女は一際大きく泣く。

「俺もだよ」
 彼が抱きしめ、その背を撫でる。
 なにを見せられてるんだろう。
 冬和は戸惑う。
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