別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「君次第かな。君のためになると思うけど」
 課長は意味ありげに言う。
「異動先はどこですか?」
「まだ言えないんだよね。フライングで話してるから内緒だよ」
 責められたうえに、秘密という重荷を背負わされた気がした。



 会議室を出てフロアに戻ったときだった。
 同僚の数人が固まって話をしていた。

「緒方さん、よくあんな子に乗り換えたよね」
「だって百合宮さんとつきあっても楽しくなさそう」
「薄情な感じするし。普通は怒るところで無表情って不気味」
「仕事はできるけどさ」
「夜は声もださなさそう」
 ゲラゲラと笑う同僚たち。

 呆然と立ち尽くした。
 頭が真っ白になって反論もなにも思い浮かばない。

「おい」
 一人が気付いて声をかけると、一斉に振り向いた。
 いくつもの視線に射られて、冬和はなおさらに動けない。

「電話しなきゃいけないんだった」
 一人が言うと、金縛りが解けたようにみなが動き出す。
「メールチェック忘れてた」
「外回り行ってきます」
 みながちりじりに散ったあと、冬和はのろのろと自席に戻った。
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