別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
 こういうとき、どうするのが正解なのだろう。
 泣きもしないからかわいげがないのか。

 だけど彼ら彼女らの気が済むようにしてやる必要があるだろうか。泣いたところで陰口の餌になるだけだ。
 異動したほうがいいのかもしれない、とため息をついた。

***

 授業を終えた久遠は、大学を出るとまっすぐに事務所に向かった。
 麗美はちょうど打ち合わせを終えて客を見送るところだった。

 客が帰ると、麗美は微笑を浮かべて久遠を見た。
「どうしたの、早いわね」
「別れさせ屋、やめたい」
「探しものがみつかったから?」
「うん。仕事の途中なのにごめん」

 男女を意識しなくていいから楽。
 未波に言ったとき、衝撃が体を走り抜けた。

 男女を意識しないからこそ、惹かれている。
 そのことに、気がついてしまった。この矛盾を自分でもどう説明したらいいのかわからない。
 ただ『冬和』という『人』と一緒にいたい。
 それを愛と呼ぶのかもしれないが、違うと思いたかった。
 この気持ちを愛なんかで汚したくない。

 だが、どうしたって自分は男で、自分のものにしたい欲望が生まれる。
 そうして、それは抑えようもなく膨れ上がり、自分を飲み込む。

 もはや『それ』の名前なんてどうでもいい。ただ冬和が欲しい。
 焦燥と衝動が久遠を捕えて離さない。

「まだ序盤だもの、引継ぎだけしてくれたらいいわ」
 麗美はくすっと笑った。

「なに?」
 久遠がけげんに聞く。
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