別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「なに?」
 男が聞き返す。
「結婚してくれるでしょう?」
 横目でちらりと見ると、女はうっとりと男を見つめ、彼の手をテーブルの上でぎゅっと握りしめていた。

「無理だよ」
「なんで!? ずっと一緒にいたいって言ってくれたじゃない!」
「オレ、学生だよ? 一緒にいるのと結婚がイコールじゃないよ」
 冬和は驚いた。学生相手に結婚を考えていたのか。そもそもが不倫のようだが、どうなっているのか。

「うそつき!」
 声が響いて、店中の目が彼女に集まった。
 女性が立ちあがり、男性を睨みつける。

「オレも言わなきゃいけないことがあって」
 彼は悲しそうに女性を見つめ返す。
「昨日、だんなさんがオレに会いに来た。あなたと別れるなら慰謝料は請求しないって。だから、別れてほしい」

「私ってその程度だったの? お金に負けるの!?」
 女は涙をこぼして彼に詰め寄る。
「三百万も払えないよ。学生だよ?」
 困惑したように、彼は言う。

「ひどい!」
 女はわあっと泣き崩れた。
「オレだって悲しいよ、だけど無理だよ」
 男はにやりと笑った。顔を伏せている女は気が付かない。
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