別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「あなたがあなたの世界を見つけて帰っていく。なんだかそれが楽しかったの」
「なにそれ、意味不明」
 麗美は書類をまとめると自分のデスクに向かった。

「愛する人を大切にね」
「そんな陳腐な言葉でまとめないで」
 久遠の言葉に、麗美はまた微笑を浮かべた。

***

 冬和は定時で仕事を終え、よろよろと会社を出た。
 無性に久遠に会いたかった。たわいもない話をして、日常を取り戻したかった。

 LONELINESSに入ると店内を見回した。
 彼はいなかった。いなくてむしろよかったかも、と思い直した。

 彼がいたなら、きっと仕事中だ。邪魔するわけにはいかない。
 アイスコーヒーを注文し、本を広げる。

 が、出くわした女性や杏奈に泣かれた騒ぎが思い出されて集中できない。
 泣いていた人はあのあとどうしただろう。
 杏奈にもうまく対応できず、同僚には笑われ、バカにされ。

 怒るべきだったのか、泣くべきだったのか。
 ちゃんと感情はあるし、傷付くし腹も立つ。

 だが、とっさにどうしたらいいのかわからない。呆然としていると、それを無感動だと勘違いされてしまう。

 本はまったく読み進められない。何度も同じ行をたどっていることに気が付き、あきらめて本を閉じた。
 コーヒーを飲んで店を出て、驚いた。
 浩之がいた。
「どうしてここに」
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