別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「わかったら帰って。本当に警察に言うわよ」
 断固として言う冬和に、浩之は観念したように目を落とし、歩き出した。
 彼の姿が見えなくなると、冬和はほうっと長く息をついた。

「怖かった。ありがとう」
「怖がってるように見えなかったけど。つきあってるふり、名演技」
 久遠は面白がるように冬和を見つめる。

「演技じゃない? オレのこと好きになってくれた?」
「そんなわけないじゃん」
 冬和は笑った。その頬に、久遠はそっと手を添える。

「泣いていいよ」
 冬和は困惑して彼を見上げる。
「私、笑ってるのに」
「俺には泣きそうに見えるよ」
 彼が言うから、冬和はまたにこっと笑ってみせた。その目の端に、雫が光った。

「どうしてあなたにはわかるのかしら」
「なんでだろうね」
 久遠は冬和を抱き寄せた。頬が彼の暖かな体温を拾い、瞳からは雫がぽろぽろとこぼれる。

「これでも好きだったのよ。ふられたときは悲しかったの」
「そうだね」
 久遠は彼女の泣き顔を隠すように抱き込む。
 髪を撫でられ、優しい感触にさらに涙があふれる。

「やばい、キスしたい」
 言うなり、彼は冬和の額に唇を落とす。

「なにするのよ」
 悲しみにひたる時間もくれないなんて。彼と別れてから初めて涙を流しているというのに。
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